2024年5月16日木曜日

アンリ・デュパルク(1848-1933):参考録音

  • Charles Panzéra (Br.) / Magdeleine Panzéra-Baillot (Pf.) : EMI -  g, m, i, k, n, l, o, a, p, j, e, q (12)
  • Gérard Souzay (Br.) / Dalton Baldwin (Pf.) : EMI - g, k, i, m, j, e, p, q, n, a, l, o (12)
  • Paul Groves (Tn.) / Emily Pulley(Sp.)/ Roger Vignoles (Pf.) : NAXOS - d, a, l, g, n, p, m, e, i, k, q, b, o, j, h (15:Sp.はhのみ)
  • Sarah Walker (MS.)* / Thomas Allen (Br.) / Roger Vignoles (Pf.) : Hyperion -  g*, m, p*, n, k*,  i, a*, b, c*, d, h*, o, j*, l, f*, e, q*  (17 : 歌曲・重唱曲全曲)
  • Françoise Pollet (Sp.) / Jérôme Kaltenbach (cond.) / Orchestre Symphonique et Lyrique de Nancy : Accord - Lénore, l, a, g, q, f, p, i, Danse lente, Aux étoiles (8:管弦楽伴奏版歌曲全曲)
a. Chanson triste / b. Le galop / c. Romance de Mignon / d. Sérénade / e. Soupir / f. Au pays où se fait la guerre / g. L'invitation au voyage / h. La fuite / i. La vague et la cloche / j. Elégie / k. Extase / l. Le manoir de Rosemonde / m. Sérénade florentine / n. Phidylé / o. Lamento / p. Testament / q. La vie antérieure

作品表をご覧いただければわかるとおり、デュパルクの歌曲には、La vague et la clocheのように中声用の曲もあるとはいえ、その多くは高声用のものがオリジナルである。また、作品表には 記載していないが、内容上、男声・女声のどちら向けかが明らかな場合も多い。というより、(男女のデュエットであるLa fuiteはおくとして、)はっきりと女声向けの曲は Au pays où se fait la guerreくらいで、後は概ね男声向けと考えるべきだろう。だが、実際にはディスコグラフィーを見る限り、デュパルクの歌曲は男性歌手の独占物というわけではなく、 女性歌手によって歌われることも多い。作品の魅力と価値を思えば、当然のことではあろうが。
ちなみに、こうした点について、デュパルクに関しては彼自身の考えがはっきりと伝わっている。
デュパルクは、移調しての歌唱については気にしていなかったようだが、歌手の性別にはかなりこだわったようで、例えばPhidyléを女性が歌うというのは、本人にとっては問題外であったようだ。 移調の問題についていえば、デュパルクの作品はかなりクロマティックな着想に基づくことが多いし、バロック期や古典期には確固として存在した調性の持つ固有の性格に対する 意識はあまりなかったのだろう。とりわけ典型的な平均律楽器であるピアノでの伴奏の場合には、管弦楽の場合よりも尚一層、移調によって色彩感が変わることはないから、 移調で問題が生じるとしたら、それは寧ろ、音の高さが変わることで声の質や性格が変わってしまう場合なのではなかろうか。
実は性別に対するこだわりもまた、単に歌詞との整合性といった問題にのみ留まるのではなく、デュパルクがその曲を書く時にイメージし、出来上がった作品のヴォーカル・ラインが要求する 声の質や肌理の実現の問題であったようだ。歌をつける詩は必ず声に出して読み、デクラメーションに対して異様なほどのこだわりを持っていたデュパルクならではの見解であると思われる。
勿論、これはあくまで作曲者の見解であり、従ってそれは嗜好の問題に過ぎないとして気にしない立場もあるだろうし、歌う側にすれば、デュパルクの歌曲に魅力を感じたのであれば、 やはり歌ってみたいと思うだろう。だが、聴き手としてどう思うかということになると意外と微妙で、個人的にはやはりテノールが歌うのが一番ぴったりくるような気がする。男声であれば スゼーの歌唱は素晴らしいと思うが、やや重くて強すぎるように感じられる瞬間がないとは言い難いのである。とはいえバリトンであってもリリック・バリトンであるパンゼラの歌唱ではそういうことは感じないから、声の質の違いや、発声法の違い、それ以上に解釈の違いによる部分が大きいのであろう。
一方、管弦楽伴奏は女声のものしか聴いたことがないので、ピアノ伴奏との比較をするのは難しいのだが、デュパルクの場合には、例えばマーラーの歌曲ほど管弦楽伴奏の必然性はないように感じられる一方で、デュパルクの作品は基本的にロマンティックで劇的な部分があるので(例えばLa vie antérieureを思い浮かべて頂きたい)、管弦楽版の色彩と呼吸の大きさが自然に感じられることも多い。 結局、細かいことを言い出せば曲によりけりということになってしまうのかも知れない。だが、どちらが優れているかを議論することにそんなに意味があるとも思えない。 両方ある作品は、それぞれのバージョンの良さを味わうことができれば、それでいいのではないかと感じている。

なお上掲の5アルバムは必ずしも代表的な録音という訳ではなく、比較的入手が容易であり、偶々私が入手できて聴いたことがあるものを挙げているに過ぎないが、収録曲にはそれぞれ特色がある。(なお曲順は私が確認できた盤に基づいているので、同一録音でも別の排列の盤が存在するかも知れない。デュパルクの歌曲には連作歌曲集はなく、一曲ずつ独立しているから、排列は完全にアルバムの作成者・演奏者に委ねられている。)
まずAccord版は管弦楽伴奏版歌曲8曲全てに加えて管弦楽曲3曲が収録されている点で他のアルバムとは異なる。
Hyperion版は全集(Rouart et Lerolle, 1911)に収められたDuparcが最終的に出版を認めた13曲に加え、最初には5つの歌曲作品2(Flaxland, 1870)として出版されたものの一旦は破棄され、全集からは除外されたLe galop, Romance de Mignon, Sérénadeの3曲と、別に1903年に単独で出版された重唱曲La fuite含む歌曲17曲全曲を収録している点と、独唱曲を男声(バリトン)と女声(メゾ・ソプラノ)で歌い分けている点に特色がある(私見では女声の方がメインの分担に思われる)。
Naxos版はテノールが歌っている点に特色があり、明らかに女声向けのAu pays où se fait la guerre以外にRomance de Mignonも含まれていない一方で、ソプラノのPulleyが参加した重唱曲La fuiteを収録している。
EMIの2種、いずれもバリトンのパンゼラ版とスゼー版は代表盤といって良いだろう。収録曲は同一であり、全集に収められた13曲のうち女声向けのAu pays où se fait la guerreを除いた12曲が収録されている。

(2005.12.11公開,13,14,15,17,24,28,2006.1.3,6補筆修正,2007.1.12修正,2007.04.20プーシキン「ルサルカ」についての記述を訂正、参考文献を追加。4.21補筆修正。4.22作品表再公開。 5.6加筆, 5.18コメント追加, 5.19加筆および仏語原文追加, 6.19修正, 2024.5.13,16過去の記事を復元し、加筆の上再公開)

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