ウィーン・フィル、楽友協会合唱団との、このシュミットの大作の演奏は、これまで 聴いてきたアーノンクールの演奏の中でも、少し特殊なものであるような気がする。
この曲はアーノンクールのレパートリーの中では、そのローカリティの軸に最も 寄ったものに違いない。日本では滅多に演奏されず、ほとんど知られてさえいない この曲のこの演奏を聴いていて感じるのは、曲に対する演奏者の親近感のようなものだ。 ヨハネの黙示録に取材した大編成で長大な作品、しかも、それまでの数百年のヨーロッパの 音楽の語法の図書館と見紛うばかりの語法の多様性に富み、かつまたその同時代的な部分では、 調性音楽の限界すれすれにまで近づく複雑な音楽であるにもかかわらず、演奏から 受ける印象は、そうした曲のイメージから想像されるような複雑さや晦渋さからは 程遠い、親密で愉悦感に満ちた雰囲気である。
この演奏はしばしば、楽友協会合唱団という基本的にアマチュアのコーラスを起用して いるせいで、その技術的な限界故に留保がつけられているようだが、私のような単なる 聴き手にとっては、その演奏の精度が気になるより、自分達にとって身近な音楽を 演奏する親密さのようなものを感じてしまい、かえってこの演奏の価値を高めている ように思えるほどである。
恐らくは決して譜読みも楽ではないであろう曲を振っているというのに、 アーノンクールもいつもの透明感に満ちた解釈に加えて、いつも以上に自ら楽しんで、 生き生きとした表情の音楽を引き出しているように思える。アーノンクールの設計の 巧みさはいつもの事とはいえここでも舌を巻くばかりで、繰り広げられる物語に 耳を傾けているうちに2時間近い作品をいとも簡単に聴き通せてしまう。
ウィーン・フィルもこの難曲をやすやすとこなしているというだけでなく、 音楽に対して自然に向き合っているように感じられる。
それゆえこの演奏を聴くのは非常に楽しい経験である。 この演奏が、決して数が多いとはいえないこの曲のディスコグラフィーでどのような 位置づけを得ているのか、あるいは今後獲得していくのかはよくわからないが、 アーノンクールの演奏としては、それが最も現代に近い作品の演奏であるという だけではなく、アーノンクールをはじめとする演奏者達の作品に対する親密感という 点で最も際立った演奏の一つとして確固たる地位を占めるであろうと思われる。(2003.6稿を再掲)
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