2026年10月12日月曜日

ショートノート(8):フランク(2)――《オルガニスト》を除いても、同じ型の分裂が入れ子状に現れる

本稿は、前稿「フランク――典礼用小品と大作が、三つの独立した層すべてで分かれる」を受け、《オルガニスト》第I・II巻(37曲)を除いた大作18曲のみでPCAを再実行した結果を報告する。


1.大作18曲だけでも、同じ軸が立つ

18曲(Messe à 3 voix、Fantaisie、Prélude, Fugue et Variation、Pastorale、Prière、Finale、Domine non secundum、Panis Angelicus、Cantabile、《魔に憑かれた狩人》、Variation、ヴァイオリンソナタ、弦楽四重奏曲、交響曲、詩篇150番、3つのコラール)だけで旧9指標PCAを実行したところ、PC1は分散の58.7%を説明し、Avg_r・Tonal_Focusが負、SD_r・Avg_Step・PC_Density・Texture_Volatility・Step_Rate_100が正という、前稿・他の作曲家分析と同じ符号構成(正=分散・複雑側)になった。

フランク大作18曲図

フランク大作18曲図

図1. 大作18曲のみの旧PCA。色はDominant_Mode。


2.宗教的声楽曲と、後期の循環形式作品が両極に分かれる

PC1の両極に並ぶ作品を見ると、興味深い構成が現れる。

  • もっとも集中・単純側(PC1最小):Prélude, Fugue et Variation(−3.56)、Panis Angelicus(−3.50)、Domine non secundum(−3.09)、詩篇150番(−2.95)。いずれも典礼用・宗教的声楽を伴う小規模な演奏会用作品である。

  • もっとも分散・複雑側(PC1最大):2つのコラール(2.12、3.52)、弦楽四重奏曲(2.64)、Variation(1.99)、交響曲(2.18)、Prière(2.40)。いずれもフランク最晩年の、半音階的書法がもっとも進んだ循環形式の器楽作品である。

すなわち、《オルガニスト》という37曲の典礼小品を除外しても、同じ型の「単純・宗教的小品 対 複雑・後期器楽大作」という分裂が、大作18曲の内部に入れ子状に再現される。 これは前稿で確認した「《オルガニスト》対大作」という分裂が、単にジャンル規模(小品か大作か)の違いを反映しているだけではなく、より一般的に「フランクの作品群には、宗教的・機能的な性格の作品と、半音階的に先鋭化した器楽的大作という、2つの極があり、この構造は分析の粒度を変えても繰り返し現れる」ことを示唆する。


3.DFTで見ると、この分裂はf4優勢の集中として現れる

PC1上位6曲(Variation、Choral1、Symphonie、Priere、Quartet、Choral2)のDominant_Modeを見ると、6曲中5曲がf4優勢である(唯一の例外はPrière、f5)。これに対し、PC1下位の宗教的声楽曲群にf4優勢は一つもない(f3・f5が交代する)。

f4はIC3(短3度)に一意に対応するモードである(方法論レポートII)。フランクの後期様式は、減七和音やそれに類する短3度堆積の和声を用いた遠隔転調(しばしば「フランク的転調」と呼ばれる書法)によって特徴づけられることが音楽史的に知られている。この定量的結果は、その特徴づけと理論的に整合する――フランクの半音階的に最も進んだ作品群において、短3度周期性に対応するFourierモードが選択的に優勢になるという事実は、史的な様式記述を、PC集合の周期構造という独立した経路から裏付けるものである。


4.《6つの小品》から《3つのコラール》へ――探索から再編へ

3節で確認したf4集中は、大作18曲全体を見たときの傾向だが、ここには年代的に対応する2つの作品群が含まれている。《6つの小品》(1860〜62年、Fantaisie・Prélude, Fugue et Variation・Pastorale・Prière・Finale。今回のコーパスには、このうち5曲が含まれる)と、《3つのコラール》(1890年、フランク最晩年の作品)である。両者は、フランクの創作史の両端に位置する。

4.1 組織原理そのものの切り替え

Dominant_Modeを見ると、《6つの小品》5曲中4曲がf5優勢(唯一の例外がPrélude, Fugue et VariationのF3優勢)であるのに対し、《3つのコラール》は3曲ともf4優勢である。

6つの小品から3つのコラールへの軌跡

6つの小品から3つのコラールへの軌跡

図2. 上段:Exact_Triadic_Ratio。下段:Origin_PCSet_Ratio。バーの色はDominant_Mode(青=f5、緑=f3、橙=f4)。

これは単なる複雑化ではなく、和声を組織する周期構造そのものが、五度圏的なもの(f5)から短3度系(f4)へ切り替わったことを意味する。f4は、フランク後期を特徴づける減七和音系の遠隔転調と理論的に対応するモードである(3節)。《6つの小品》から《3つのコラール》への移行は、この意味で「探索から再編へ」と呼ぶにふさわしい、組織原理そのものの再編成として記述できる。

4.2 Prièreの例外性――内容の先行変化と、組織原理の遅れ

ただし、この軌跡は作品ごとに一様ではない。《祈り》(Prière)は、他の4曲とは異なる位置を占める。


Exact_Triadic_Ratio

Origin_PCSet_Ratio

《祈り》

0.327(《6つの小品》中最低)

0.058(《6つの小品》中最高)

コラール1

0.406

0.028

コラール2

0.313

0.125

コラール3

0.511

0.073

《祈り》の三和音性(0.327)は、コラール1(0.406)・コラール3(0.511)よりも低く、コラール2(0.313)に迫る水準にある。原点構造(0.058)も、《6つの小品》中で最も高く、コラール3(0.073)に次ぐ水準である。旧9指標PCA(図1)でもPC1=2.40と、コラール3(0.91)を上回る複雑さを示す。

すなわち《祈り》は、三和音性・原点構造・旧PCAという3つの独立した指標では既に後期様式に接近していながら、DFTのDominant_Modeだけはなおf5のままである。 和声の中身(三和音からの距離、対称集合への接近)が先行して変化し、組織原理そのものの切り替え(f5→f4)はまだ起きていない、という状態として記述できる。《祈り》は、《6つの小品》という年代的早さと、《3つのコラール》に近い和声的内実とのあいだで、2つの時間が食い違う作品である。


5.小結

  1. 《オルガニスト》を除いた大作18曲だけでも、「単純・集中」対「複雑・分散」という同じ型の軸が立つ。両極には、宗教的声楽曲群と、後期の半音階的循環形式作品群が、それぞれ対応する。

  2. この軸の高分散側(後期器楽大作)に、f4優勢が集中する(上位6曲中5曲)。これは、フランクの後期様式を特徴づける短3度系の遠隔転調書法と、理論的に整合する結果である。

  3. 前稿の「《オルガニスト》対大作」という分裂と、本稿の「大作内部の宗教曲対器楽大作」という分裂は、入れ子状の自己相似的な構造として捉えることができる。すなわちフランクの作品群は、どの粒度で切っても、機能的・宗教的な単純さと、半音階的・器楽的な複雑さという同じ対立軸を反復する。

  4. この対立軸は、《6つの小品》から《3つのコラール》への年代的な移行としても具体的に確認できる。Dominant_Modeがf5からf4へ切り替わるという形で、「探索から再編へ」という軌跡が組織原理の水準で裏付けられる。ただし《祈り》は、和声の内実(三和音性・原点構造・旧PCA)では既に後期様式に接近しながら、組織原理(Dominant_Mode)だけがなお旧来のf5に留まるという、内容の変化と構造の変化が食い違う例外である。


(2026.10.12 公開)

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