2026年10月12日月曜日

ショートノート(10):ラヴェル(2)――《ボレロ》除外:《パヴァーヌ》が、今度は拡張指標だけで孤立する

 

本稿は、前稿「ラヴェル――《ボレロ》という単一アトラクターの極限事例」を受け、《ボレロ》を除いた14曲でPCAを再実行した結果を報告する。《パヴァーヌ》を併せて除外するかどうかも検討したが、後述の理由により14曲版(《パヴァーヌ》を含む)を採用した。


1.《パヴァーヌ》は除外しない方がよい

《ボレロ》・《パヴァーヌ》の両方を除いた13曲でもPCAを試算したが、残る13曲の並びは14曲版から単純な「二番手の繰り上がり」では説明できない形に組み替わり、かつ、次節で述べる《パヴァーヌ》固有の現象(新旧PCAでの乖離)そのものが消えてしまう。《パヴァーヌ》を除外することで分析が明瞭になるわけではなく、むしろ本稿で報告する知見そのものが失われるため、14曲版(《ボレロ》のみ除外)を採用する。


2.《ボレロ》を除くと、《パヴァーヌ》が入れ替わるように浮上する

《ボレロ》を除いた14曲で旧9指標PCA・拡張8指標PCAをそれぞれ独立に実行した。

ラヴェル14曲版図

ラヴェル14曲版図

図1. 左:旧PCA(14曲)。右:拡張PCA(14曲)。《パヴァーヌ》を強調した。

旧PCAでは、《パヴァーヌ》はPC2(Avg_Step・SD_r・Step_Rate_100が強く負荷する軸)で突出して低い値(−4.13、14曲中最低)を取るが、最近傍点までの距離を14曲全体の平均ペア距離と比較すると、《パヴァーヌ》は突出した孤立点とは言えない(最近傍距離3.26 対 corpus平均3.48)。すなわち旧PCAでは、《パヴァーヌ》は「動きの少なさ」という一つの軸では極端だが、2次元の配置全体としては、他の曲との距離は平均的な範囲に収まる。

これに対し拡張PCAでは、《パヴァーヌ》は最近傍距離3.70(corpus平均2.99の約1.6倍)という、明確に孤立した点になる。この孤立は、Rbar_full(方向集中度)が14曲中もっとも高い(0.700。《ボレロ》を除いた残り13曲の中では最大値)ことに主に由来する。

すなわち《ボレロ》を除くと、「《ボレロ》ほど極端ではないが、同じ性質(高い方向集中度)を持つ作品」として《パヴァーヌ》が入れ替わるように前景化する。 旧PCAはこの性質をはっきりとは捉えないが、拡張指標のRbar_fullはこれを明確に捉える。


3.これは、シベリウスで確認した「新旧の乖離」と同じ型の現象である

この結果は、シベリウスの速報で報告した「旧PCAで近接する作品が、拡張PCAでは分離する」という現象の、鏡像のような事例である。シベリウスでは「旧PCAで近い2曲が、拡張PCAで離れる」という形だったのに対し、ここでは「旧PCAでは全体として際立たない1曲が、拡張PCAでは際立って孤立する」という形を取る。いずれにせよ、旧9指標と拡張指標が、同じ作品に対して異なる判断を下すという点では共通している。

《パヴァーヌ》は、グロリア的な緩徐な性格を持つ初期の小品として知られ、半音階的な動きに乏しく、限られた和声領域に留まる書法で書かれている。旧PCAがこれを「動きが少ない」という一つの軸でしか捉えないのに対し、拡張指標のRbar_fullは「五度圏上の特定方向への集中」という、より直接的にこの性格を表す軸でこれを捉えている。


4.小結

  1. 《ボレロ》・《パヴァーヌ》の両方を除く13曲版は、《パヴァーヌ》に関する知見そのものを消してしまうため採用しなかった。14曲版(《ボレロ》のみ除外)を正式な続報として報告する。

  2. 《ボレロ》を除くと、《パヴァーヌ》が拡張PCA(特にRbar_full)において明確な孤立点として前景化する。旧PCAでは、この性質は突出した孤立としては現れない。

  3. この現象は、シベリウスで確認した「旧PCAと拡張PCAの概念的独立性」と同じ型の、独立した事例である。

(2026.10.12 公開)

0 件のコメント:

コメントを投稿