2026年10月12日月曜日

ショートノート(6):ペッテション――第9番を境に、三つの独立した分析層が同時に動く

 本稿は、ペッテション交響曲第6〜16番(11曲)を対象に、拡張指標とPC集合DFTから得られた知見を速報としてまとめるものである。既掲載の旧9指標分析(「ペッテションの調性力学」統合確定版)とは重ならない範囲、すなわち拡張指標単独PCA(以下PC1_ext)とDFTが固有に示す発見に絞る。


1.三つの層、三つの異なる道具立て

ペッテションの作品史については、旧9指標によるPCA(PC1)が、第8番までの正値域から第10・11番での極端な負値域への転換を既に示している。本稿がこれに加えるのは、まったく別の変数群・別の数学的手続きから構成された、2つの独立した分析層が、この転換と同じ時期に同じ断絶を示すという事実である。

  1. 旧PC1(既掲載):Avg_r、Tonal_Focus等の旧9指標によるPCA。

  2. PC1_ext(本稿):Anisotropy_Ratio、Peripheral_Circular_Concentration、Rbar_full、Residence_Entropy、Attractor_Number、Dominant_Residence_Ratio、Origin_PCSet_Ratio、Exact_Triadic_Ratioという、旧9指標を一切含まない8変数だけによるPCA(55楽章コーパス全体に対して実行、PC1は分散の65.6%を説明)。

  3. DFT(既掲載の一部+本稿):PC集合そのものの周期構造(f1〜f6)。

旧PC1は「調性力学」、PC1_extは「方向性・滞留・PC集合近接性という、調性の凝集度そのものを含まない幾何学的性質」、DFTは「PC集合の周期的対称性」を、それぞれ独立に測る。これら3つの道具立てが、同じ作品史上の同じ地点で足並みをそろえて変化することは、単一の指標セットに依存しない頑健な現象として、「第9番のレジーム転換」を裏付ける。

3層パネル図

3層パネル図

図1. 上段:旧PC1(既刊、参照用に薄く表示)。中段:PC1_ext。下段:f3・f4・f5の振幅とFourier_Concentration(右軸、点線)。


2.PC1_extが示す「跳躍」と「高原」

PC1_extの負荷を確認すると、正方向に効くのはResidence_Entropy(+0.42)・Attractor_Number(+0.39)・Anisotropy_Ratio(+0.28)、負方向に効くのはRbar_full(−0.41)・Dominant_Residence_Ratio(−0.41)・Peripheral_Circular_Concentration(−0.39)・Exact_Triadic_Ratio(−0.29)である。すなわちPC1_extが高いことは、「滞留構造が多中心的で、局所分布は等方的だが、放射方向への集中度・周辺部の方向的一貫性・単一領域への依存・三和音性はいずれも低い」ことを意味する複合軸である。

ペッテション11曲のPC1_extは次の通りである。

曲

PC1_ext

Sym.6

0.109

Sym.7

0.120

Sym.8

0.339

Sym.9

1.949

Sym.10

2.827

Sym.11

2.907

Sym.12

2.879

Sym.13

3.090

Sym.14

2.509

Sym.15

3.135

Sym.16

2.701

第6〜8番が0.11〜0.34という低い帯域にまとまるのに対し、第9番で1.95へ跳躍し、第10〜16番はいずれも2.5〜3.1という高い帯域に収まる(図1中段)。旧PC1が示す「第8番+3.966→第9番+1.936→第10番−3.065」という符号反転を伴う軌道とは尺度も符号の向きも異なる(両者は独立変数群から別々に構成された座標系であり、直接の数値比較はできない)。しかし、「第9番を境に段階的な水準変化が生じ、その後は元の水準へ戻らない」という定性的な構造そのものは、旧9指標を一切用いないPC1_extでも独立に再現される。


3.DFT――単純な「f5からf4へ」ではない

下段(図1下)を見ると、f5が最大なのは第6番のみであり、第7〜10・12番ではf3が、第11・13〜16番ではf4が最大となる。すなわち構造としては

f5  f3  f4

という推移が見えるが、これを「f5からf4への単純な移行」と読むと誤る。第7〜10番ではf3が、第11番以降ではf4がそれぞれ優勢になるとはいえ、その差はいずれも僅少であり(例えば第9番はf3=0.456・f4=0.455とほぼ拮抗)、f3とf4という2つの弱い求心力が入れ替わり立ち替わり前景化しているにすぎない。

この「弱さ」を裏付けるのがFourier_Concentrationである(図1下、右軸)。第9〜12番では0.0044〜0.0059ときわめて低く、コーパス全体の中央値を大きく下回る。すなわち第9番以降のペッテションは、「f5という単一の強い求心力が、f4という別の単一の強い求心力に置き換わった」のではなく、「単一の強い求心力そのものが失われ、複数の弱い求心力が拮抗する状態に移行した」と記述する方が正確である。

第13・14番でFourier_Concentrationがやや回復する(0.0150、0.0151)ことも注目に値する。しかしこれは第6〜8番の水準(0.0049〜0.0139)への復帰というより、f4がやや優勢を強める形での部分的な回復であり、PC1_extが同じ時期に高原状態を維持していることと矛盾しない。


4.小結

  1. 旧9指標PCA・拡張指標単独PCA(PC1_ext)・DFTという、独立した3つの分析層が、いずれも第9番を境とする変化を示す。 これは特定の指標セットに依存した人工物ではなく、異なる抽象度から収束的に得られた、頑健な現象である。

  2. PC1_extは、第6〜8番の低い帯域(0.11〜0.34)から第9番で跳躍し(1.95)、第10〜16番は高い帯域(2.5〜3.1)の「高原」にとどまる。第6〜8番の状態への復帰は見られない。

  3. DFTが示すのは「f5からf4への移行」ではなく、「単一の強い求心力の喪失と、f3・f4という複数の弱い求心力の拮抗」である。これはFourier_Concentrationの持続的な低さ(第9〜12番で特に顕著)と整合する。


(2026.10.12 公開)

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